つなぎ美術館主幹・学芸員の楠本智郎氏に
2021 個展「わだ さくみアニメーション展-動く絵になるまで」
のレビューを書いていただきました。/2021年9月
アニメーションでは、実世界では不可能な動きも映像として可能になる。しかし、学生時代に学んだ総合芸術の一環としての身体表現における限界の克服に端を発しているわださくみの作品は、あくまでも生身の人間の動きが表現の中軸となっており、見る者に身体と感性の同期を誘いかけてくる。過去を振り返れば美術や文学などのハイカルチャーとアニメーションを含む大衆文化を表すポップカルチャーの境界は常に曖昧であった。さらに、現在は両者を意識的に区別することよりも、曖昧さによって生じる異種混交の混沌とした様態の中から新たな価値を生み出すことに期待が寄せられている。自身の体験に基づく日常のさまざまな葛藤をアイロニックな視点を交えて描き、相対的価値観を基準とする社会での絶対的価値の存在を暗示するわだの作品は、多様な価値やあらゆる事象の境界を意識し峻別する行為の意味と異種混交的文化の可能性について、今後も人々に問い続けてゆくであろう。
楠本智郎 つなぎ美術館主幹・学芸員
Comments